2018年11月19日月曜日
盗撮事件(2つの刑事事件報告①)
(九重山から由布・鶴見岳)
あまり積極的にしているわけではないのですが,ふつうの弁護士程度には刑事事件も手がけています。
ふつうの弁護士は民事専門です。刑事事件は国選事件がほとんど。あとは顧問先の従業員の交通違反や少年事件など,特別の関係がある場合にかぎられるのではないでしょうか。というのも,やはりお金がないので犯罪を犯してしまうというのが一般的ですから。
よくお客さんたちから,なんで悪い人の弁護をするのか訊かれます。このように評判が悪いので,刑事事件を好きでやっている弁護士はすくないのではないでしょうか。
でも,刑事弁護制度は,人類の多年にわたる知恵だというほかありません。むかしは刑事弁護制度がなく,一方的な取調べを受け,無実なのに処罰される人が多かったと思われます。近代的な刑事弁護制度は,そのようなことをなくそうとしてつくられたものです。個々的にみれば首をひねりたくなるケースがあっても全体としてみれば,われわれ市民の自由がそれによって守られているのです。
さいきん,刑事事件が2つ終了したので報告します。
ひとつは盗撮事件です。電車内で女性のスカートのなかを写真撮影したとされる事件です。
盗撮は,刑法には載っていません。福岡県の迷惑防止条例という条例で禁止されています。単純にはいえませんが,国会の定める法律で処罰するほどではない比較的軽い犯罪について条例で規制されています。盗撮について条例の定める刑の重さは6月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。
相談にきたときには事件直後で在宅捜査だったのですが,翌朝には逮捕され,身柄事件になりました。そして新聞に名前がでてしまいました。裁判所で有罪が確定するまえに,警察が記者に情報をもらしているのです。これにより,依頼者は仕事を失ってしまいました。一種の私刑です。
逮捕は最大3日間の身柄拘束です。その後は,裁判所の審理を経て,10日間の勾留手続となります。10日間の勾留で足りなければ,もう10日間だけ捜査することが許されます。
勾留請求の際に,裁判所に対して勾留する必要がない旨の意見書を提出しました。勾留の要件は,①逃亡のおそれと②証拠隠滅のおそれです。なにもしないのに懲罰的な理由で勾留という自由剥奪をすることはできません(実際には,ときどき見かけます。)。
本件被疑者は,家族と生活し,定職につき,まじめに働いていました。初犯ですし,有罪となっても罰金刑が予想されます。そのような状況で逃げたりすることは考えられません。
盗撮の証拠としては,撮影につかったスマートフォン,そのデータ,自宅パソコン内のデータです。これらはすべて警察が押さえています。被疑者は被害者の住所,名前などを知りません。だから,隠滅しようにも隠滅できる証拠もありません。被疑者はそれまで任意の取調べに素直に応じていました。
こういう状況ですから,勾留の必要はないはずだ。というのが意見書の趣旨です。
この意見書がでていたためか,検察官は勾留請求をおこなわず,被疑者はすぐに釈放されました。
処罰は20万円の罰金でした。
被疑者は心から反省し,2度とやらないと挨拶にこられました。どの被疑者のいうことも信頼できるというわけではないのですが,この方の反省は本物だと思いました。立ち直りを期待したいと思います。
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