2015年12月15日火曜日
法の不知はこれを許さず(顧問企業研修③)
「法の不知はこれを許さず」
あるいは,「法の不知は害する」。
という法格言があります。
主に刑法の分野で議論されます。
「法律を知らなかったとしても,そのことによって,
罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」(刑法38条3項本文)
速度違反で捕まったときに,「この道路が時速○○キロメートル規制
ということは知らんかったので・・・」という弁解は許されないということです。
あまり論じられませんが,この問題は刑事法の分野だけでなく
民事法,行政法の分野でも問題になりえます。
膨大な六法全書,弁護士や検察官,裁判官でさえ
おそらく全部知っているということはないでしょう。
お客さんから,すごいですねぇ~と持ちあげられますが
実はぜんぶは知りません。
とくに近時,社会が複雑になり,かつ,変動速度を速めているので
法律も日々制定・改正されていきます。
法律だけでなく,下位の政令・省令や通達まで含めると
とうてい手に負えるものではありません。
社会生活を律するルールはこれら制定法だけでなく
判例法もあります。
裁判所も日々判決を言い渡し
それらが積み重なって判例法を形成しています。
英米法などは
判例法を基本としているぐらいです。
われわれが日ごろ接する例で多いのは
相続・遺産分割や時効に関するルールです。
きょうは相続に関するルールについて紹介し
時効などについてはまたの機会に。
相続に関して,民法の相続編は
2とおりの制度を定めています。
ひとつは法定相続制度
ひとつは遺言制度です。
洋服でいえば,前者はレディメイド
後者はオーダーメイド
食事でいえば,前者は定食(シェフのお薦め)
後者はアラカルトです。
相続発生のきっかけとなる亡くなった人のことを
被相続人といいます。
相続のしかたについて,被相続人があれこれと
指示をするのが,遺言制度です。
それに対して,民法がこのように分けなさいと
指示をするのが,法定相続制度です。
遺言があればこれが優先し
なければ法定相続によることになります。
ただし,遺言があるにせよ,ないにせよ
相続人どうしで,どのように分けるかは決められます。
相続人どうしの仲が悪く,話がつかないのであれば
遺言や法定相続がその解決指針となります。
相続人どうしで話がつかないときには
家裁の裁判官が分け方を決めることになります(審判)。
その際に準拠する解決指針が
遺言や法定相続になります。
配偶者がいて,子ども2人,家庭円満であれば
じぶんたちで話し合って決めればよいです。
法定相続では,夫が亡くなったばあい
妻2分の1,子どもたち4分の1ずつです。
ですが,遺族で話し合い
母親がぜんぶ相続することにすることも多いです。
このような家族であれば
遺言をつくらなければならない必要性も低いです。
逆に,遺言をつくったほうがよい場合があります。
でも往々にしてあまり作られていません。
法定相続制度は,100件の相続が発生したときに
だいたい70~80件くらいはうまくいくように作られています。
しかし,残りの20~30件については
どうかなという感じになります。
たとえば,子の1人が両親と同居して
親の介護を長らくしてきたような場合です。
3人兄弟であれば
他の兄弟と平等に3分の1となります。
介護をしてきたのが長男の嫁であれば
まったく相続分がありません。
寄与分や特別受益という調整規定があるものの
うまく機能していないと思います。
寄与分は,親の商売を長男が手伝って遺産の形成に寄与したような場合
多めに相続できるという制度です。
家裁での遺産分割調停や審判も裁判所でおこなうことなので
争いのある事実を主張するときは証拠の裏付けが必要になります。
親の介護を長年おこなってきたことはともかく
それによって遺産が増加,もしくは減少しなかったことの証明は困難です。
特別受益は,逆に,生前に贈与を受け取っている場合
遺産の先渡しとして勘定されるという制度です。
農家で長男が農業を手伝っているようなとき
田畑を生前贈与している場合があります。
親の意思としては長男に多く相続させるつもりだったと思われますが
特別受益制度によると,遺産をもらえなくなったりします。
このように法定相続をそのまま適用したのでは
不公平感が残る,そのようなケースでは遺言をつくる必要があります。
しかし,被相続人が亡くなってから相談にきたのでは遅すぎる
いまさら,どうもなりません。
その際,ついつい「生前に遺言書をつくってもらっておけば
よかったですねぇ」と言わずもがなのことを言ってしまいます。
その場合,よくある反応が
「そんなことになるとは知りませんでした。」です。
むろん,遺言制度じたいを知らないことはないでしょうが
親の介護を長らくしても報われないことを知らなかったということでしょう。
そんなときに頭をよぎるのが
「法の不知はこれを許さず」,「法の不知は害する」です。
日々変化する膨大な法令をぜんぶ知っていることは不可能でしょうが
相続など基本的なところはセミナーなどで押さえておいたほうがいいでしょうね。
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