『64(ロクヨン)』(文藝春秋)
横山秀夫さんの新刊。
64といっても
昔懐かしいゲーム機ではない。
昭和の終わり,64年に発生した
誘拐殺人事件の警察内の符丁だ。
『陰の季節』,『動機』などとおなじく
D県警を舞台とする警察小説。
『クライマーズ・ハイ』などとおなじく
組織の不条理のなかで生きる個人を描く。
組織も地方新聞社ならぬ
警察組織ともなると,不条理もハンパでない。
警察庁と地方警察,警務と刑事,キャリアと現場
組織内組織どうしがギリギリと音をたててきしむ。
織田裕二主演の映画『踊る大捜査線』とおなじ
だけど,まったくちがう話題かと思うほどリアル。
きのう朝,兵庫県警の留置場で
連続殺人の容疑者が自殺した。
ふつうなら,う~ん
真相が究明されず残念というところ。
しかし,この小説を読んだあとなら
それにとどまらぬ問題の構造がくっきりと理解できる。
この小説のミソは
主人公が警察組織の広報官だということ。
内部の争いだけでなく
外部との争いの潮目でもあるわけだ。
記者クラブ,マスコミ,犯罪被害者との間に
虚々実々の攻防が繰り広げられることになる。
ここらへんは
地方紙の記者出身の著者ならでは。
犯罪被害者,加害者との折衝も
広報官として立場ゆえ微妙。
他方で妻や娘との問題も抱えており
内憂外患。それがいっそう緊張をたかめる。
一気に読める,もっと読みたくなる
すばらしい作品だ。
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