2012年6月1日金曜日
『犯罪』 by.福岡県筑紫野市の弁護士ブログ
(ハルリンドウ@九重山・坊がツル)
『犯罪』(東京創元社)
フェルディナント・フォン・シーラッハ
ドイツの弁護士が経験した11件の事件
を語る短編集。
フェーナー氏
タナタ氏の茶わん
チェロ
ハリネズミ
幸運
サマータイム
正当防衛
緑
棘
愛情
エチオピアの男
の11作。
短編集なのだけれども,どの事件も奥が深い。
とてもリアルで,それぞれ長編の読後感が残ります。
でもドイツ人らしく
各事件のアンソロジーだけでは終わらせません。
全体を一貫する仕掛けが
ほどこされています。
まず,表のエピグラフはドイツの理論(量子)物理学者
ヴェルナー・K・ハイゼンベルクの言。
「私たちが物語ることのできる現実は,
現実そのものではない。」
ん?作者が物語ることのできる『犯罪』は,
現実そのものではない,ということか?
これは,いかに上手く書いても
限界がありますよ,というエクスキューズだろうか?
でも,いやいや
たいへんおじょうずですよ,と読み進みます。
すると読了寸前
最後の扉に,つぎの言葉が。
Ceci n’est pas une pomme.
これはリンゴではない。
これはベルギーのシュルレアリスムの画家
ルネ・マグリットの画のタイトルから。
リンゴをリアルに描いて
そのタイトルが「これはリンゴではない」…。
やられた…
って感じですね。
読み返してみると,各事件のなかに
リンゴが出てきます。へ~。
もうひとつ,へ~なのは
この作品が今年の本屋大賞・海外小説部門の受賞作だということ。
国内部門については前に書いたように
大賛成というわけにはいきません。
が,海外部門については
選者のみなさまに敬意をはらいたいと思います。
ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳
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